漫画家をはじめとするクリエイターが作品や活動の対価として受け取るオカネ。一段とデジタル化とネットワーク化が進む中で、このオカネは誰がどのように出し、どのようなルートで本人に渡ることになるのか――ということを、3月末に開催されたKindleインディーズマンガに関するイベントで考えました。

このイベントで実感したのは、Kindle、そしてインディーズマンガという仕組みを通じて漫画家へのオカネの渡り方が変わりつつあることです。

Kindleインディーズマンガは、 Kindle ダイレクト・パブリッシングの中でマンガの公開を促す仕組みです。現在は原則、無料で国内のみの配信。ただAmazonの注力が分かるように、インディーズ無料マンガ基金を設け、作品が毎月のランキングの上位に入った漫画家には一定額が支払われます。 今回登壇したアイタローさんとナカシマ723さんも基金から報奨金を受け取った漫画家です。

みそ先生もトークイベントで指摘されたように、これまで漫画家の収入は

  • 雑誌連載の原稿料
  • 単行本販売時の印税

でした。

それが、今回アイタローさんと ナカシマ723さん は、出版社からは一銭も受け取っていません。おふたりが自分の作品について受け取ったのは、

  • アイタローさん  基金からの報奨金
  • ナカシマ723さん  基金からの報奨金
             自分のイラストの無断利用に対する賠償金

さらにKindle Unlimitedに自身の漫画を登録しているみそ先生によると、こちらからも読まれたページに応じて一定額が入ってくるとのこと。

では、実際にこれらの仕組みを構築しているAmazonはどのぐらいクリエイターにオカネを出しているのか。少し古いですが、Amazonは2018年12月期の決算書で、 Kindle Unlimited やプライム会員向け「 Kindle オーナー ライブラリー」に登録された本の権利者に対して 「Kindle Direct Publishing Select Global Fund」から払った分配金について公表していおり、2018年は、2億6000万ドル以上とのことです。

いまやAmazonが何の会社というかは難しいですが、日本の書籍分野でいえば「小売業」。小売業を手がけながらも、作家=クリエイターにオカネを出しているということになります。しかもKindleインディーズマンガに関していえば、Amazonは読者からは直接オカネは受け取っていないのです。

では、小売業がクリエイターに直接オカネを出すのが珍しいのかといえば、出版の歴史を振り返るとそうでもありません。日本の紀伊国屋書店や三省堂書店は出版業を手がけています。(三省堂書店の辞書にはお世話になりました)江戸時代の貸本屋は直接作家と契約し、作品制作を依頼していました。

と考えると、別にAmazonが作家にオカネを出すことは何の不思議もないように思えます。

このテーマを考えるときに私が指針にしているのは、大学時代に出会った『芸術のパトロンたち』(高階秀爾氏)です。簡単にいうと、ルネサンス時代の芸術作品には、教会や富豪といったパトロンがいたということ。この「作品のスポンサーになる」ということ、昔はオカネがある人しかできませんでしたが、今はpixiv Fanboxやnoteが出てきたことで、個人でも少額からオカネを出せるようになっています。

こうしてクリエイティブなものの一物一価は崩れていくのかとぼんやり考えていたら、すごいニュースが飛び込んできました。

なんと電子書籍版は無料で、あとからウェブで課金してもらうとのこと。紙版も390円(税抜)というのは漫画の単行本より安いです。

私は大学のときに、ゼミの先生の関係で書籍流通について調べたことがあり、「書籍の価格を出版社が決めて流通はそれを守らないといけない」ことについて、長い歴史と議論があったことを知りました。

きっとこれが変わるなら、流通・小売側からだろうと思っていたら出版社と著者側から崩しにいくという衝撃。もちろん一定の販売が見込め、専業作家ではない光本さんだからというのはあるかもしれませんが、Amazon以上に価格破壊になりそうです。

そもそも漫画を含むクリエイティブな作品は、個人によって価値に差があるもの。ある作品に1000円出したい人がいれば、1万円出したい人もいる。この「電子書籍は無料であとからウェブ課金」というのは、こうした個人のクリエイティブな作品に対する価値の差にも対応できそう。(オタクの方々はすごくわかると思うのですが、オタクは感動すると可能な限り課金したくなるのです)

こうした世界になったとき、オカネを出す人と受け取る人の間に入るのは誰になるのか。従来の「出版社」だけに限らないことは確かです。

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